子どもの健やかな眠りと目覚め

 ヒトは昼間に使用した脳や身体の疲れを癒すために眠ります。脳や身体を休息させ、機能を調節するために睡眠は不可欠です。
 ヒトの自律神経では夜になると副交感神経が主体になり、心臓の動きを抑えて血圧を下げ、お腹を動かして便を肛門に送ります。目覚めると交感神経が活発になり、血圧が上がり脳や筋肉に行く血流が多くなり、活動に備えます。こういった睡眠・覚醒、体温、ホルモン分泌、自律神経が1日の周期で変動しており体内時計と表現します。脳内にある体内時計は約25時間周期で動いており、地球自転周期の1日の24時間より少し長いといわれています。体内時計の25時間をヒトの生活の24時間に合わさなければ体調が徐々に崩れていくことになります。脳が体内時計を24時間周期の地球に合わせるためには、朝に光をあびることが重要だとされています。夜更かし、朝寝坊をしていては体内時計と実際の時間とのずれを修正できません。逆に、夜の光は体内時計の周期を伸ばす可能性すらあります。早寝早起きが元気な子を作ります。
 睡眠・覚醒に関係する物質やホルモン、睡眠中に分泌が活発化するホルモンがあります。特に、睡眠中に多く分泌される成長ホルモンは骨を伸ばして身体の成長を促進し、筋肉を増強し、痛んだ組織の修復や脂肪分解も行います。このホルモンの分泌が少ないと低身長になります。「寝る子は育つ」です。
 メラトニンは夕方になって目に入る光の量が減ると分泌され始め、夜には分泌量が増え午前2時頃に分泌量がピークになります。このホルモンは眠気を催す作用があります。朝に向かってだんだんとメラトニンが減少し、覚醒に近づきます。1歳から5歳の間に多く分泌され思春期には少なくなりますが、老人ではメラトニン分泌の減少は著しく、老人は朝の目覚めが早く、夜中に何度も目が覚めるようになるといわれています。夜に明るい所にいると分泌が抑えられます。その他、メラトニンには抗酸化作用、老化や発癌の防止、生体リズムの調節、性成熟の抑制作用などもあります。
 朝の太陽の光に刺激され、目覚めと共に分泌が始まるセロトニンが脳内に増えると鎮静作用によって精神状態が落ち着き、不安や恐怖の感情を抑え、イライラしなくなり、穏やかな気分にしてくれるといわれていますし、食後の満腹感や充実感を得ることが出来、身体の色々な機能が活発化して基礎代謝が上がるとも言われています。逆に脳内にセロトニンが不足すると不安緊張が誘導され、不眠状態に陥りますし、感情にブレーキがかかり難くなったり、すぐ平常心をなくす「切れ易い」精神状態、マイナス思考の状態になります。セロトニンの分泌は朝の光と歩行、咀嚼、呼吸といったリズミカルな筋肉運動で高まります。朝の光を浴び、身体を動かすことでセロトニンの分泌は高まりますし、昼間に太陽光を浴びることでメラトニンの夜の分泌も高まります。
 最近、「寝ないと太る」という言葉を見かけます。睡眠時間が短い子では、テレビを見る時間が長く、夜食を食べ、朝食を欠食し、運動不足などの太りやすい生活習慣にあることが指摘されています。しかし、夜食を食べることだけが太る理由ではありません。睡眠時間が短いと脂肪を分解する成長ホルモンの分泌が減りますし、交感神経の活動が収まりにくくなり血清コルチゾールが上昇し、インスリン抵抗性が増大して血糖値が上昇する、レプチン(食欲を減少させる)が減ってグレリン(食欲を高める)という物質が増え体重が増加するといった可能性も指摘されています。交感神経が緊張状態になると血圧の上昇もおこります。十分睡眠をとらないと肥満、高血糖(糖尿病)、高血圧といったメタボリックシンドロームを誘導する事になります。人間の身体にとって重要な役割を果たす物質の多くは睡眠・覚醒のリズムの上で成り立っています。このリズムが崩れると体温やホルモンのリズムも崩れてしまいます。特に朝の太陽の光を浴びることと十分な睡眠時間をとることは重要です。
 最近、夜の街中で子どもを連れた親を良く見かけます。親の夜更かしに合わせて子どもの入眠時間が遅くなったり、親の都合で子どもの眠りを中断したり、帰宅の遅い父親とのスキンシップを重視して乳幼児に夜更かしをさせるなどもあります。最近の小学生以上では宿題や塾のために寝るのが遅くなる事情もあります。しかし、生活リズムの基本は睡眠です。これが乱れると子どもの発育に悪影響を及ぼしかねません。将来の生活習慣にも悪影響を及ぼします。乳幼児では午後8時から翌朝の6時までの10時間の睡眠時間が必要といわれています。身体と共に精神についても「寝る子は育つ」です。それぞれの家庭での子どもの置かれた状況や家庭での子どもについての考え方があると思います。それぞれの家庭環境の状況内で実現可能な範囲を行えば良いと思いますが、早起きをし、昼間に体をよく動かし、就寝時間を決め、寝かしつけるときは物語を読んだりする、テレビや電気を消して眠りやすい環境を整えることも重要です。文部科学省では「子どもの生活リズムの向上プロジェクト」として「早寝早起き朝ごはん」という運動を推進しています。朝ご飯は朝に元気がない、ボーッとしている、切れ易い子を少なくします。昔から言われている「早寝早起き元気な良い子」は本当のことです。
 睡眠障害には悪夢や夜驚症、夢遊症などがあります。悪夢はレム睡眠の間に見る怖い夢のことで完全に目が覚めて、夢の細部まで思い出せます。頻繁に悪夢を見るようであれば誘引となる原因を調べることも重要です。夜驚症は不完全な覚醒状態で非常に怖がりますが数分後には自然に眠りに入ります。夢遊症は眠ったままの状態で歩きますので、怪我をしないような配慮が必要です。夜驚症も夢遊症も子どもに多く、特別な治療方法はありませんし、自然に治まります